ある朝トイレの床が透明な水で濡れていた話
それは梅雨時の蒸し暑い朝のことでした。寝ぼけ眼でトイレに入った瞬間、足元のひんやりとした感触に目が覚めました。見ると、便器の根本あたりに、手のひらほどの大きさの水たまりができています。慌ててティッシュで触れてみると、水は茶色ではなく完全に透明で、下水特有の嫌な臭いも全くありません。ひとまず汚水ではないことに胸をなでおろしましたが、同時に「じゃあ、この水は一体どこから?」という新たな恐怖が湧き上がってきました。床下から水が湧き出しているのか、それとも壁の中で何かが起きているのか。想像はどんどん悪い方へと膨らんでいきます。その日は仕事に行く前に、雑巾で床をきれいに拭き上げ、様子を見ることにしました。しかし、夜に帰宅すると、朝と全く同じ場所に、同じくらいの大きさの水たまりが再現されているではありませんか。これはもう放置できない。私は探偵のように屈み込み、スマートフォンライトを片手に徹底的な調査を開始しました。便器の周り、タンクの下、給水管の接続部。乾いたティッシュを怪しい箇所に次々と押し当てていくと、ついに反応がありました。壁からタンクへと伸びる給水ホースの、タンク側の接続ナットのあたりが、じんわりと湿るのです。原因はここだ。恐る恐るナットに触れてみると、ほんの少しだけ緩んでいるような感触がありました。私は工具箱からモンキーレンチを取り出し、慎重に、そして優しくナットを時計回りに少しだけ締め付けました。すると、翌朝にはあれだけ頑固だった水たまりは跡形もなく消え去っていたのです。原因はパッキンのわずかな劣化とナットの緩みでした。あの時の安堵感は忘れられません。透明な水漏れは、パニックにならず冷静に観察することが解決への近道なのだと学んだ出来事でした。