トイレの流れが完全に止まってしまった時、藁にもすがる思いでドラッグストアに走り、強力そうなパイプクリーナーや洗浄剤を手に取る人は少なくありません。ボトルに書かれた「溶かしてスッキリ」といった頼もしい言葉を見れば、これで解決できるかもしれないと期待を抱くのも無理はないでしょう。しかし、その原因がうっかり流してしまったティッシュペーパーである場合、その期待は裏切られる可能性が非常に高いという現実を知っておく必要があります。 市販されている多くの配管用洗浄剤は、主に浴室や洗面所の排水管詰まりを想定して作られています。その主成分は、髪の毛のタンパク質や、皮脂、石鹸カスといった有機物を化学的に分解することに特化しています。一方で、ティッシュペーパーの主成分は植物由来の「セルロース」という繊維です。これは、洗浄剤の成分では簡単には分解することができません。むしろ、水を含んで固まったティッシュの塊に洗浄剤が染み込むだけで、詰まりが解消されることはほとんど期待できないのです。 それどころか、安易に薬品を使用することには大きなリスクが伴います。効果がないからと多量の薬剤を注ぎ込むと、詰まりでせき止められた便器や排水管の中に、高濃度の化学物質が滞留することになります。この状態で、もし他の種類の洗浄剤を混ぜてしまえば、有毒なガスが発生して命に関わる危険性さえあります。また、後から駆けつけた修理業者が作業を行う際にも、この滞留した薬品が原因で作業が困難になったり、特殊な対応が必要になって追加料金が発生したりするケースも考えられます。 トイレの詰まりに対して、私たちが家庭で安全かつ効果的に試せる対処法は、今も昔もラバーカップを使った物理的な方法が基本です。薬品は、その用途と成分を正しく理解して使わなければ、問題を解決するどころか、新たな危険を生み出すだけの結果になりかねません。手軽に見える解決策ほど、その裏に潜むリスクを冷静に見極めることが、トラブルを最小限に食い止めるための賢明な判断と言えるでしょう。